木曜日。祝日。天皇誕生日。午前中はネットで買ったものたちの受け取りのため家から出られない。5件分くらいの受け取りをこの午前にまとめていた。平日が残業地獄だとこうなりがちでしんどい。
夕方から、中学時代の友人たちと飲み会だった。正月に帰省した際にフルメンバーで集まれなかったため、仕切り直しでこうなった。
みんな住んでいる場所がバラバラのため、誰でもアクセスしやすい金山駅にした。名鉄も地下鉄もJRもすべて通っているし、車で来たとしても名古屋駅よりはパーキングが安い。安易に決めた焼き鳥屋さんが結構美味しくて、店員さんの感じもとてもよく、また行きたいなと思った。
泥沼離婚の末に実家に戻り、転職して再起を図る友人Aはさっそくマッチングアプリでデートを重ねているらしく、その話題で持ちきりだった。どうやら二人気になる人がいて、どちらかにアタックすべきか悩んでいるらしい。その二人というのが、
① 5歳年上、180cm超の長身、モデル体型でスーツが似合う。ルックスも悪くない。でも話が退屈、声が変に高くて気になる。話し方も気になる。でも背が高くてスーツが似合う。
② 4歳年下、身長は自分より少し高いくらい、私服がめちゃ自分好み、御尊顔が最高にイケメン。初対面なのにお喋りが楽しくて気を遣わず何時間も話し込んでしまった。でも身長は低いし、年下。
二人とも年収も働き方もおんなじ感じで、どちらも脈アリで、次のデートの予定もあるらしい。個人的にはどう考えても②しかありえないし、他の友人たちも満場一致で②推しだった。だって、初対面でも長年の友人のように自然に会話できて楽しいなんて、相当波長が合わない限り滅多にないことだ。一緒にいる上ではとても大切だと思う。
ところが友人Aは「4つも年下」「身長が自分とほぼ同じ」であることで二の足を踏んでいるようで、他の友人総出で「何を言っているんだ…?」と嗜めた。どちらにすべきかなんて明らかすぎるのに、それでも躊躇させる高身長の魔力と年齢の呪いとは何なのだろう。年の差を相手が全く気にしていないらしいのに、どうして気にしてしまうのだろう。②のほうが一緒にいて楽しいと分かっていながら、どうして①の高身長を棄てきれないのか。
恋愛対象の条件の問題の根深さを思うとき、いつも思い出す職場の年上パートさんがいる。彼女はとてもスタイルがよく綺麗で、175cmのモデル体型。誰もが一目見て「モデルさんみたい」というような人だった。彼女はどんなに相手の性格が良くても、収入が良くても、異性としての魅力があっても、自分よりも身長が低い人を好きになれなかった。
逆に言えば、自分よりも身長が高い人であればどんな条件も妥協して恋愛対象にできたらしい。自分より稼ぎが悪くても、ルックスが自分好みでなくても、学歴がなくても、性格がイマイチでも。そんな彼女の恋愛はたいていうまくいかなかったらしく、今も婚活を続けている。本人も自分のこだわりには呆れているようで「自分でもこんなに身長に拘るのは病気だと思っていて、でもどうしても高身長じゃないと受け付けない。身長に関わらず相手を好きになりたいのに」と言っていた。彼女自身が自分の制御できないこだわりに悩んでいた。日本人男性で175cm以上の人の方が少数派であることなど、彼女はとうの昔から知っていて、知ってもなお諦めきれないのだという。
そういえばこんな話もあった。大学時代に、同級生にとても身長の高い男の子がいた。就職先がほぼ男性の職場だったせいか、恋愛に関しては奥手で受け身な彼は、入職以来出会いがなくなってしまった。自分から行動できないからだ。困った彼は、善は急げと20代半ばで若年層向けの結婚相談所に登録したらしいのだが、引っ込み事案で自分に自信がないと言う彼に対し、相談所のスタッフに「あなたは188cmも身長があるから絶対大丈夫!」と太鼓判を押されたという。彼も当初は「何を言っているんだ?」と訝しんだらしいが、その後はスタッフの言ったことを実感することばかりが起こったらしい。その他の条件を差し引いても、身長を相手に求める条件にする人が結構な数いるというのは現実としてあるのだろう。
友人Aは、自分より年上で、自分より高身長の相手としかお付き合いした事がない。そのことに気づいたのも、アプリを始めてかららしい。画面上でやり取りをする男性を選ぶとき、知らず知らずのうちに年齢や身長で判断している自分がいる。これまでは、学校や会社の中で、自然と惹かれ合った異性と付き合っていると思っていたのに、潜在的には年上で自分よりも身長が高い人を無意識に選んでいたのかもしれない。アプリで出会いを求めたことで、自分のこだわりが露骨に分かっただけかもしれない。そう思ったそうだ。
そう思えば、こだわる年齢差も身長差もフェチみたいなもので、多分理屈で処理できるものではないんだろうな。頭で考えるより先に、年上がいいと思ってしまうし、高身長がいいと思ってしまうんだろう。きちんと対話できることを何よりも重要視している私としては、傍からみるとどう考えたって楽しくおしゃべりできる②の人がいいと思うのだけれど。でも好みの問題は大切だから、友人Aのこだわりを否定するつもりはない。恋愛は祈りに近いなと思った。
他のみんなもアプリでいい人を探しているらしい。なんだか時代だなって思った。みんな化粧が崩れないうちにプロフ用の他撮り写真撮影会になっていた。みんな年々フットワークが軽い。加齢による年の功だとすれば、歳を取るのも悪くないよなと思った。