高等遊民前夜

日記と考え事・雑感のログ

動植物園に植物を見に行く

 金曜日。こどもの日。とくに何も予定のないGWだったから、散歩がてら近所に出かけることにした。人混みが嫌いだから大型連休にあえて出かけようと思わない人間の私だから近場が限界。GWに休みはいらないから、GW分の休暇を別で取らせてくれってずっと思っている。

 ということで近場の東山動植物園へ来た。東山動植物園といえば、イケメンゴリラとコアラで有名な名古屋市の観光スポット。東山動植物園にある展望タワーは自宅から見えるくらいには近場だ。年パスを持っているから正直いつでも来ることができるけれど、まあせっかくだし、ということで。ちなみに東山動植物園は大人は入場料500円、年パスは2000円。一年に4回行けば回収できる。学生の頃、最寄りの東山公園駅までなんとか歩いて行けるような大学に在籍していたから年パスでよく通っていた。とくに大学院生の頃は、平日の昼間っから暇そうな動物を暇そうに眺めに行って、社会のなかで浮き草のような存在となった自分の身の上を楽しんだりしていた。平日の動植物園ほど楽しいものはないのだ。

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 コアラ舎のエンブレム。コアラがいかに売りであるかよく分かる。この壁の前では記念写真を撮っている家族連れがたくさんいた。

 今日は動物エリアはほとんど無視で、植物エリアを中心に楽しもうと決めていた。こう言うだけで、人々の多くは「正気か?」を訝しげになるだろう。事実、動植物園という名前のとおり、東山動植物園には植物もたくさんあるけれど、やっぱり世間的には動物がメインで、植物エリアは時間があったら見るオマケに過ぎないといった感はある。大抵の若者は好き好んで植物園に行ったりしないのだ。その世間の空気感に抗う私は近年植物にドはまりしているのだが、実は今回はドはまりして以来はじめての植物園だ。新しいものにハマってから見る植物園はきっと違って見えるだろう。

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 ということで、個人的メインの温室へ来た。手前にある5棟は「東山動植物園温室前館」と呼ばれる建物で、1936年に建築された国の重要文化財。日本国内に残存する最も古い公共温室で、イギリス王室の温室に見られる建築様式らしいです。このところずっと改修工事をしていて,2013年から工事に取り掛かりリニューアルオープンしたのが2021年4月。コロナ禍に阻まれてずっと行けていなかったので、地味に楽しみにしていた。

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 温室内に巨大な池があるエリア。普段園芸している身としては、こんなに金と労力のかかる環境を維持しているだけでも感動で立ち眩みがする。

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(夫の身長は180cm。植物の大きさと天井の高さが伝わるだろうか。)

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 綺麗な青紫の花を咲かせるヒスイカズラもありました(高所で咲いていたため逆光でうまく撮れず。)落ちた花を並べて展示してありました。

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 地味に驚いたのがそこそこ大きいキソウテンガイ(奇想天外)が3株もあったこと。この植物は雌雄異株のため、複数所有しているということかもしれない。キソウテンガイは1対2枚の一生の伸ばしつづけるおかしな植物で、葉が落葉して生え変わったりすることがない。ひたすら根元から新しい葉が出つづけ、葉先は枯れていく。砂漠で二千年を生きると言われている希少な植物です。日本にも大株を保有している植物園がいくつかあるけれど、地元にあったとは知らずうれしかった。そういう話を夫としていたら他の観光客たちに話を聞かれていて恥ずかしかった。

 ちょうど伊藤蟻植物農園のアリ植物の展示が開催されていたので見る。アリ植物というのは品種名ではなく、植物が成長する過程で一部に空洞を作り、そこにアリなどを住まわせて共生しながら成長する植物の総称。植物体の中にアリを住まわせるだけでなく,アリが好む蜜を分泌するなど、アリを誘引し、栄養供給を行う仕組みを持っているものが多い。近年日本でもとてもホットな植物だけれど、自宅で生育環境を整えるのが難しすぎて我が家はまだ手を出せていない。
 この農園の伊藤彰洋さんは国内のアリ植物の第一人者と言って差し支えないかたで、自生地に自ら赴いて熱心に活動されている。今日ももはや博物館級の植物たちがたくさんあり興奮して眺めていたのだが、私たちの脇をキッズたちがつまらなそうに「え〜またサボテン〜??」(サボテンではない)と愚痴りつつ通り過ぎていくのが面白かった。子どもの段階でこの界隈にハマったら逆にやばいというか物凄い才能だと思う。親御さんの影響で英才教育を受けたキッズがこの先どんどん出てくるかもしれない。

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もはや自然の造形物とは思えない。


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 もちろん、一般の人々がイメージするわかりやすいサボテンが植っているエリア(写真左)もある。手前の丸いサボテンは金鯱と呼ばれる名古屋らしいネーミングのもの。すでに多くの人が知ることになったビカクシダも園内にはたくさんあって、大株も(写真右)。この辺りは大人の方がはしゃいでしまって恥ずかしかった。ビカクとかなんて、今でこそ流行していて多くの人にとって価値あるものになったけど、それまでは殆どの人が見向きもしない植物だったわけで、そんななか長年収集して育ててきた人々のことを思うと頭が下がる。植物園に大株がたくさんあるというのはそういうことだろう。

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 アガベの自生地を再現したようなエリアもあった。私個人はロゼット型に葉を開く多肉植物全体に興味がないが、さすがに園芸に興じているだけに無駄に知識がついてしまい、思わず見てしまった。

 写真では分かりづらいが、奥と手前に枯れたアガベがそのまま残されている。アガベは一生に一度だけ花を咲かせ、そのまま枯れてしまう竹のような植物。花を咲かせるまで30〜50年かかるから、いつでも見られるものではない。そういう事情もあってか、枯れたアガベをそのまま残しておいて、お客さんが見られるようにしてある。
 花芽の高さは何十メートルもあり、温室の屋根に届きそうな勢い。この高い高い花をそのまま倒壊させることで、なるべく遠くへ種を落として生息地を広げるということなのだろう。

 色々回ってみて、かつての私だったらスルーしていただろうと思うものがたくさんあって、個人的にはとても面白かった。知識を得ることの利点の一つは、認知する世の中の解像度が上がることだと思っているけれど、それを実感できた。目の前のよくわかんない草だったものの正体がが分かると自ずから全てが変わって見える。
 特に今回感じたのは、この植物園を維持するのにかかっている途方もない労力だ。当然に育てるのが難しいものも分かってしまう。この辺りは自分自身が園芸趣味にのめり込まない限りわからなかったことだろう。植物園を回っていると、時折関係者エリアにたくさんの植物の苗を養生してあるのが見えて、展示エリアの職場が枯れた時のために後継を用意しているのかな?と思ったりした。きっと裏でも途方もない努力があるのだろうと思う。

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 おまけにちょっとだけ動物も見た。中に人間が入っているとしか思えない、哀愁ただようマレーグマ。壁に手をついてしばし客のほうをじっと眺めていた。