高等遊民前夜

日記と考え事・雑感のログ

喪服は買っておきましょう

 水曜日。大雨。

早朝、母からの電話で目覚める。危篤となっていた祖母が亡くなったと聞く。本当に急だった。コロナ禍で人を集めるわけにもいかないから、通夜を省略して告別式のみ密葬で行うことになったらしい。とにもかくにも、今日はやらないといけない仕事があるため、なんとか今日の夕方中には帰りたいと伝えた。その後は急いで選択。なるべく家のことを済ませておこうと思う。頭は冷静だ。実感がないのだから。

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 出勤し、上司に忌引きで休む旨を伝え、急いで仕事をこなして昼前に早退をした。就業規則では忌引きは上限三日取れるけれど、仕事の業況的には二日が限界だからそうした。いったん帰宅し、身支度を整え、必要な荷物をスーツケースに押し込む。就活時に小さめのスーツケースが欲しくて、楽天で2900円で買った適当な奴はまだ壊れない。着替えや化粧品やらリモート業務用のPCやらを無理やり詰め込んで蓋をした。バタバタしていたら昼食を焦がしてしまった。昼食は諦めて雨のなか家を出た。

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 電車で地元の駅へ向かう。移動中、星野源新垣結衣の結婚のニュースを知る。好きなふたりが結婚することがとても嬉しい。けれども状況が状況なだけに情緒がぐちゃぐちゃだった。地元の駅に到着し、妹と合流して必要品を揃える。私も妹も礼服を持っていないのだ。最後に葬式に参列したのはお互い学生の頃。だから買うタイミングを逃してしまい、これまで買わずに大人になってしまった。急いで貸し衣装で借りようとするも、地元の貸し衣装屋は水曜定休ばかりで調達できそうになかった。仕方なくAOKIへ向かい、妹の分も立て替えて礼服を二着買った。8万円なり。いい歳して持っていなかったことを反省した。歳をとるとはこういうことなのだな。これから人の死に直面したり看取ったりすることが増えていくのだなと実感する。礼服を買うとはそういうことだ。そういえば結婚式に参列することはそこそこあったけれど、人の死は私の人生において少なかった。それは喜ばしいことかもしれない。ただこれから離別は増え、急に駆けつけなければならない事も増えていくのだろうなと感じる。喪服の決済を済ませながら思った。

 実家に到着し、母からいろいろな話を聞く。祖母の病名は卵巣癌。でも、直接の死因は誤飲性肺炎。亡くなった日が手術予定日だったらしい。病気したという話は聞いていなかったのでとても驚いた。どうやら母とも、2年ほど前から連絡が取れなくなっていたらしい。母が祖母に電話をしても電話をとってくれなくなっていた。祖母は母の兄夫婦と同居していたけれど、兄夫婦にも直前まで体の不調を悟らせなかったということだ。もしかしたら自分の病状をわかっていて、周囲に悟らせないようにしていたかもしれない。母は看護師だから、見抜かれてしまうと思ったのだろうか。同居している兄夫婦が祖母の異変に気づいて病院に連れていった時には、お腹は妊婦のように膨らみ、腹水が4リットル溜まっていたとのことだ。相当つらかったはずだ。それを誰にも悟らせずに、1人で痛みを耐え抜き、何を思っていたのだろうか。お腹に水が溜まり、精密検査をすることになった際、祖母は頑なに車椅子に乗ろうとはせず、大きな病院の端から端まで歩いたという。どこまでも強情で頑固で気高い生き方だったのだろう。
 そんな祖母は、4月の中旬ごろ、同居している兄夫婦に通帳と銀行印を渡し、今後お金に困ることがあったら使うように言い出した。もしかすると本当に、その時には自らの死を悟っていたのかもしれない。本人が亡くなってしまったいま、本当のことはわからないけれど。

 途中でココイチでテイクアウトしたカレーを食べながら、母と妹と祖母の話をした。父は夜勤で不在だった。とにかく5月に入院して手術予定日を待っている間に急変し、急に死んでしまったということだった。死の覚悟もしないままに逝ってしまったから、葬儀も県内の身内だけで密葬になったのだ。そんな話を夜更けまで話した。