高等遊民前夜

日記と考え事・雑感のログ

The 1975を聴きに行ってきた

 土曜日。正午ごろ、名古屋・栄のアップルストアでぶっこわれたApple pencilをバッテリー摩耗という建前で新品交換してもらってから同居人と合流し、中部国際空港へ向かう。空港ほど近くのSky Expoへ、いま良くも悪くも話題のThe 1975の来日公演に向かう。東阪で終わらず名古屋に来てくれただけでもまあ奇跡。名古屋は常に名古屋飛ばしの運命にある。

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(会場のモニター。左からベース・ボーカル・ドラムス・ギター。全公演ソールド。)

 ご存じない方向けに説明すると、The 1975はイギリス出身の4人組バンド。2013年にデビューアルバム『The 1975』で英国1位になっている。日本では2019年のサマソニ来日で流行った印象。私が知ったきっかけはというと、なぜか日本で人気が出ない The Killersというバンドが好きで、動画をYouTubeで漁っていたらコメント欄に「キラーズが好きならThe 1975も聴くべし」と書いてあって検索したのがきっかけだった。セカンドアルバムがでる前くらいだっただろうか。


The Killersの気障なMV。UKロックっぽいけど米国のバンド。)


(The1975初期曲。キラーズと似てないようでシンセの感じや80'sみのある音楽が共通している気がする。)

 2010年代の音楽シーンというのは、ロックにとって冬の時代と言われていて、ヒップホップとかEDMとか、イケイケな音楽が世界的な中心になっていく一方で,ロックバンドがオワコンになっていたんですよね。そんな不遇な時代、ロックが保守的かつ古い、一部のオタクたちの音楽になっていたところに、めちゃくちゃポップでお洒落な、これまでのロックバンドのイメージとは一線を画す異端児として現れたのがThe 1975という流れになります。(あまりにポップでお洒落で、本人たちのルックスも相まって当初はアイドルバンド扱いをされた時期もあった。)それから着実に活動し、2010年代以降、唯一ひとり勝ち出来ているバンドと言っていい気がします。音楽史っておもしろい。

 音楽の特徴としては、あらゆるジャンル音楽を包摂し昇華させていきながらも、一貫してポップであることを軸としており、音楽性にブレを感じさせないバランス感だと思っている。すべてにおいて過剰なことをしているようで、それを感じさせない。歌詞も悲観的だったり、政治とか薬物とかメンタルの話とかと多様な問題を詰め込むけれど全然そういう風に聴こえない。80年代のポップスを取り入れていることもあって、日本人にもかなり耳なじみのいい曲ばかりじゃないかと思います。
 ポップではあるけれども実験的な部分も結構あって、PR手法とか、ライブやMVの演出とか、そもそもの音楽の作り方とかもいろんな方法を試している感じもあり、そういうところは日本でいうところのサカナクション的な感じもします。おしゃれな感じも。

 下の動画なんかを見ると、ポップを軸にながら幅広い音楽と、いろいろ実験的な感じと、ロックバンドらしい飲酒&喫煙パフォーマンスとか、ひっくるめて分かる。


(なんと今Youtubeでニューヨーク公演がフル公開されている。)

 一部楽曲だけ聴くと過剰にポップに聴こえて毛嫌いする人も多いけど、公演を観るとふるまいは完全にロックバンドのそれって感じ。音楽以外にボーカルのマシュー・ヒーリーの弱さをさらけ出す等身大な感じとか、バンドの社会に対するスタンスとか、そういった部分のカリスマ性も人気に寄与しているところはあるんだけど、話が長くなるからやめておく。

 ほかにも最近話題になった差別発言*1の件とか、言いたいことはたくさんあるが、こういう危うさを含めて等身大のスターたる所以なんだろうね。気になる方はその辺に詳しい記事やブログがたくさんあるので、是非そちらをご覧ください。最近だと、「出演者のジェンダー平等が達成されないフェスには出ない」と言っていたことが日本でも話題になったよね。

 ライブ。会場となっている建物内の廊下(ピロティ?)からメンバーが歩いて来て会場入りする様子を中継しステージ上に映す演出からスタート。この辺りでみんな普通にスマホで撮影している辺り「あ~海外ミュージシャンのライブに来ている」という感慨があった。海外はいろいろ寛容だよね。
 冒頭MCに「名古屋公演がこんなに売れると思ってなかった」みたいなこと言って自虐してたけど、客の盛り上がりもすごく良い時間でした。飲酒しながら酔った素振り(定番)を見せてでもパフォーマンスはキレキレだった。でも「Sincerity Is Scary」では歌詞飛ばして、「だってこの曲は日本でしかやっていないからね。君たちのために歌っているんだよ」みたいな調子のいいこと言ってみたり、隙も見せたりする。お客さんからお土産普通にもらって、お返しにスキットル(お酒入れて持ち運ぶ金属製のあれ)をあげちゃったりね。面白い人たちだ。そりゃ売れるよね。
 いろいろあって今The 1975に拒絶反応を思える人もいるし、私もいろいろ思うところがあるんだけど、私に限っては変わらず聴いていくんだろうな、と思うなどした。まだ若いから、健康にロックンローラーやってまた大きなバンドになってくれ。海外のバンドマンはぽっくり死ぬからほんと怖い。健康に末長く頼む。

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(アルバム全5枚。新←→旧)

*1:イギリスのPodcast番組で、ボーカルのマシューが司会者とのやり取りで黒人ラッパーや日本人を揶揄したり、司会者の発言を否定せず笑っていたりしたという問題。この番組は普段は言えないブラックトークをするという趣旨であるが、発言内容があまりに酷すぎるということで批判されている。会話を聞くと司会者がマシューを煽っている訳だし同情もするけれど、まあまともに取り合ってしまったのも悪いよね。と思う。日本にもこういう番組はあるけれど、そこへ出演することの意義とか、番組そのものの存在意義を考えさせられる。

 実際の揶揄の内容については、まあ酷いのでここでは触れないけど、気になる方は検索するとすぐ出てくるから調べて欲しい。個人的には、鋭い指摘だなっていう部分もあるんだけど、まあひどいなとは思う。よくあるアジア人差別って感じ。

 もうポーズでもなんでもいいから、何かどこかで一言謝ればいいのに。ジョークだった、そんなつもりなかった、とかでいいからさ。それくらい最高のライブだったから、リスナーもそろそろ許して各自でキリをつけたいって人も多いように思った。すっきりして楽しく応援したいんだよね。でも、日本に対する謝罪は今のところなく、いかにも大きな問題になりそうな黒人女性ラッパー弄りについては謝罪してるんですよね。黒人女性は消火しないといけない問題で、アジア人は大丈夫って思われているあたり、まあ西洋にとってのアジアはそういうポジションなんだろう。今に始まったことではないが。でもそうやって舐められないためにも、不当に差別された時は怒らないとダメだなと思った。でも本当にライブはよかったから、本当に一言謝罪の言葉がほしいのだ。許すとかじゃないけど、それで水に流すよ。頼む。