高等遊民前夜

日記と考え事・雑感のログ

紛れもない戦い

 土曜日。憲法記念日。今週発売したばかりの『違国日記』の最新刊を読み返していた。平たく言えば、両親を交通事故で亡くした女子高生が偏屈で一風変わった叔母(母親の妹)に引き取られて暮らす話だ。
 私はこの漫画を「自分とは何者か」という自己の復権の話だと思って読んでいる。主人公の女の子は両親を亡くした直後に高校に入学し、「両親を亡くした子」として強烈なレッテルを貼られ、それには拒絶反応を示すけれど、自分自身にやりたい事やなりたいものなんてなくて、では何もない自分とは何者なのかという根源的な問いに揺れる物語だ。主人公の周りにいる友だちや大人たちの言葉が、こういう物語にありがちな耳触りのいい言葉じゃなくて、よくも悪くも針のように突き刺さる言葉たちで、毎回傷つく準備をして読んでしまう(傷つくというのは必ずしも悪い意味ではない)。主人公の周りの人々もそれぞれに悩み傷つき戦っているから、言葉に重みがある。その言葉がとても誠実だから、この漫画はとてもシンプルな問いを提示する物語でありながらこんなにも支持されるんだろうなと思った。

 11時くらいから同居人と名古屋駅で行われているバレンタイン催事へ向かった。私はバレンタインというイベントに思い入れはないが、単純に美味しいチョコレートが好きなので、イベントに乗じて買いに行く。2年前に行ったときはコロナ禍のため、入場時間ごとに事前にチケットを予約する運用だった。それがとても快適だった。今回は事前予約制ではなかったけれど、昼頃からなら混雑も落ち着いているでしょう、という算段だった。同居人は「バレンタイン催事=戦争」と思っていて、怖いもの見たさで着いてきた。ロイズでいつものお菓子が買えたらそれで満足らしい。

 11時半くらいに名駅高島屋着。全然空いていない。アメフトの試合かと思ったらバレンタイン催事場だった。そんな惨状だ。メインフロアの10階に着くとネット回線が重くなっており、電波は立っているのにネットが見られなくなった。同居人と待ち合わせ場所だけ決めて二手に分かれた。私は私で買いたいものを買う。
 細い通路を四方八方に人が通ろうとして、順路もクソもないからフィジカルでの戦いになっている。男性客も結構いて、男性の方がすいすい進めると思いきや、おそらく周りが女性ばかりなのを気遣って立ち往生している人が多かった。女性の方がぐいぐい肘鉄してくる。なんだかなあと思いながらも揉まれていた。ライブハウスよりぐちゃぐちゃなフロアにベビーカーで突入してくる人や、ネット回線が崩壊しているなかで楽天カードアプリでポイントをつけようするお客さんで行列が伸びていたり、非常に味わい深い時間だった。空気を読まずに我を通すことってなんだろうか、とぼんやり考えていた。私は悪者になってまでチョコレートが欲しくはないかも知れなかった。時間内に無理せず買えそうなものを買った。

 昼過ぎに寿司ランチを食べた。美しい日本のランチ。お高いお店もランチだと手ごろに食べられたりするよね。自分の働いたお金で食べるお寿司はとてもおいしい。働いた後のビールがおいしいのと同じ感じだろうか。私はお寿司が食べたくて食べているのか、自分を慰めるために食べているのか、時々よく分からなくなる。