高等遊民前夜

日記と考え事・雑感のログ

滅びつつある日本に生きて

 水曜日。田中ヤコブの新譜が届いてから早速聴きながら朝の準備をする。公式オンラインストアで購入したのだけど、付箋に購入お礼のメッセージが書かれていて何てこった!と思ってしまった。

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 もしやこのタイミングで購入したすべての人にこれを書いているのでは…。一体何枚書いているのだ、と途方もなくなった。ほんと無理しないでおくれ。気持ちだけ受け取っておくから。私は自分の推しに気持ちよくお布施をできて新譜を聴けるだけでハッピーだから、むしろこちらがお礼を言いたいくらいなのだ。

 最近、セレクトショップの通販やメルカリで購入した際に手書きメッセージを添えられていることが増えた。便利な世の中になればなるほど、手書きであることに特別な意味が付与されているようだ。気持ちはありがたいけど、ほんと無理しないでほしい。特に大規模に商いをしているところは余計に。

 ちょっと前に話題になっていた小林美希『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』を読んだ。地獄のような題名だが内容も地獄だった。タイトルにある年収443万円とは日本のいまの平均年収のことだが、平均年収をもらえても豊かに暮らせないこの国の絶望を、本書ではルポ形式で取り上げている。

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 ネット記事のようなルポ風の文章が大半でめちゃくちゃ読みやすく書かれていたが、筆者の問題意識は20年近く前からあり、継続してこの問題を切実に追っていたらしい。就職氷河期リーマンショックを経る中で非正規雇用が拡大して経済格差が広がる気配を見せ、「15年後に問題に気づいてもtoo lateだ」と早くから指摘した経営者もいた。見せかけの景気改善だけで先送りされてきたこの問題が改善されることはなく2022年になった。物価上昇やコロナショックに見舞われ、あまりにtoo lateないまの社会で生きる人たちのいろんなケースを実録形式で紹介されている。

 筆者はルポ形式で様々なケースを紹介した後に第3章で問題提起をいくつかしているけれど、そこにはもうすでに個人で出来る具体的な策は書かれていなかった。県によっては地域が連携して就労支援をしているような救いある事例もあったが、個としてはそれぞれが問題意識を持ち選挙に行く、以上のことはもう無いようだ。ただ、みな疲弊しており余裕がなく、思考停止しているから問題意識を持つことが難しいことにも言及がされていた。本全体のトーンにあるのは、この国の政策への諦念。頑張っても報われないし、いざという時この国は頼りにならないから、自らの生活を切り詰めて備えるしかないという現実だった。

 この本を読んで思ったのは、紹介されるケースのどれもが自分だったかもしれない話だということだ。正規雇用にありつけず非正規で暮らす人、正社員だったけれどパワハラに遭って辞めたあと非正規から抜け出せなくなった人、妊娠出産を期に辞めざるを得ずその後も正規雇用にならない人、シングルマザーの貧困に苦しむ人、介護と仕事の両立に苦しみ安楽死を望む人。単身世帯から配偶者のいる世帯まであらゆるケースがある中に、自分に起こりうる未来が垣間見えて恐ろしかった。救いがない。世帯収入1千万以上あっても家計が苦しい、一人で非正規だともっと苦しい。でもそうなっても誰も助けてはくれない。国でさえも。
 たとえば私がひどいパワハラにやられて休職や退職して、すぐに元気に復職できるとも限らないし正規雇用に戻れるとも限らない。子供を設けたら今のように働けないし、苦しくなるかもしれない。自分が病気をしたらそれこそどうなるかわからない。でもそうなった時に、助けてくれるか当てにならない国に生きていて、自分に起こった悪いことは全部自己責任で、どれだけ頑張っても「みんなそれくらいやってる、それくらいやって当然」という暗黙の了解があって、誰も認めて褒めてはくれなくて、どこまでいっても息苦しいなあって思う。常に既に、疲れている。

 でも誰も助けてくれないから、国は当てにならないから、自分がちゃんとしなきゃダメなんだろうな。今が楽しければ良いというのは幻想で、限度がある。ある程度の見通しをもって自分一人くらいはちゃんと立っていけるようにしなきゃダメなんだろう。経済格差だけじゃなくて、その諦念と自覚があるかないかで数年後の生活にも差が出てきそうで怖い。今後私がやるべきことは、毎回ちゃんと選挙に行って意思表示しつつ、正規雇用で働き続けて貯金をしっかりして、経済が破綻しない程度に消費活動もして、将来の労働人口確保のために子も設けるってところだろうか。地獄か? 結婚も子供も諦める若い人が多いのは、見通しがちゃんとできているという意味では賢いんだろうな。

 年の瀬になんでこんなヘビーな気持ちにならなちゃいけないんだろと思いつつ、生きていくためには必要な自覚なんだろうと思った。しんどい。